第一の手記

6/27
前へ
/27ページ
次へ
事の発端は入学式から1ヶ月たった頃、ゴールデンウイークを間近に控えた職員室で起きた。 「青木先生」 そう声をかけてきたのは、50代の男性教師。 「先生のクラスに、小林という生徒が居るでしょう?」 小林? 言われて直ぐに、あの女顔と小林という名字が一致しない。 名前などはただの符号。日誌を見れば記されているのだから至急覚える必要はない。 何せ私は、一学年全てを管理しなければならないのだから。 だというのに、女顔=小林拓海と繋がった瞬間、ちょっと遠くて無理っぽいな、と思って投げたゴミが綺麗にゴミ箱に吸い込まれていくような爽快感に襲われたのは、目の前の教師には内緒。 「はい。彼がどうかしましたか?」 そう切り替えすと、男性教師はあからさまに眉を顰めて、 「いえね? 昨日A組でレポートを提出させたんですが、どうもこの生徒は、不真面目というか、人を喰ったような内容を出してきたモノでねぇ」 ……この男、入学式から1ヶ月、ろくに授業も進んでいない状況でレポート提出とは、一体何を考えているのだろう…。 ……あぁ、何も考えていないのか。 そんな事だから、これまで歩んできた教師生活が私の実年齢に達しようというのに、あんたは未だにヒラ教師なのよ…。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加