第1回地区予選

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「……さあ、その厚い衣を脱ぎ捨てて、私の元へいらっしゃい?」 燃える唇から発せられる声は甘く滴り、遠巻きに眺めている北風と太陽ですら、その蜜を欲し唾を飲んだ。 「さあ、いらっしゃ……あら」 しかし、旅人は星の女神に目もくれず、接触を避けて真横を通り過ぎて行った。 「あら」 「……ぶっ、ぶわっはっはっは!北風を惑わせる星の女神でさえ、この様か!これは傑作だ!」 北風は、勝ったつもりでいた星の女神が触れられもしなかった事を、大いに笑って見せた。 北風が大笑いした所為で、下界には突風が吹き抜ける。 「きゃあ!」 加減を知らない突風は、星の女神が纏う布をさらい、彼方へと運んで行ってしまった。
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