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しゃらんしゃらんと廊下の方から響く鈴の音。
ぴたりと止まって、部屋の戸が開けられる。
そこに立つのは使用人に支えられて立つ、豪華絢爛な紅の着物を身にまとった女。
鬼灯花魁が立っていた。
「お久しぶりでありんすなぁ。」
彼女はそっと座布団の上に座り、そう言った。
使用人は音もなくこの部屋を去った。
「あぁ、久しぶりだな。」
「いつぶりでありんしょ?」
「だいたいひと月とかそこらじゃないか?」
あらそんなものだったかしら?と彼女はくすくす笑う。
「あちしからしたらもう、1年も会ってないような感覚でいましたわぁ。」
くすくすと、貼り付けられたような笑顔で彼女は笑う。
「あんさん、今夜はどのようなご用事で?」
彼女は僕が話しやすいように話題を持っていく。
これは、幼い時からそうだ。
「お鈴、」
これが彼女の本当の名。
「なぁに?三郎。」
この名を呼べば、彼女は花魁から僕の幼馴染へと変わる。
「縁談が決まった。」
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