登校

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-1-   さて……今日も良い天気だ。 朝の澄んだ空気を大きな欠伸で濁しながら、谷津本秀太は空を見上げた。 家を出て徒歩15分ほどで、秀太の通う高校に着くこの通学路を歩き出してもう一年が過ぎた。 時が過ぎるのは早いものだと、年寄り臭い事を考えてしまった自分に苦笑する。 「もう……」 まさか一年後には俺が一人でここを歩いているだなんて、一年前の俺たちは考えもしなかった。たぶん……三人とも……。 ふと昔の、三人ではしゃぎながらここを歩いていた頃を思い出して、慌てて頭を振った。 「なんだって朝っぱらから感傷的になってんだ、俺……」 しっかりしろよっ!と、気合いを入れるかのように頬をひっぱたこうとし、しかし痛いのは嫌だったのでやめた。 短かった春休み明け最初の登校。秀太の胸の内とは裏腹に、周りの風景は昨年とほとんど変わっていない――いや、桜の花が、昨年より随分と早く咲き誇っていた。
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