第1部 1.

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私の実家は和菓子屋だ。 父が脱サラして一念発起和菓子職人になり、20年ほど前に暖簾分けしてもらって店を構えた。 父は生粋の職人気質で、店の経営は母の手に委ねられた。 母は元々酒屋の娘で愛想も経営の才もあって、順調に売り上げを伸ばして今では2店舗目の喫茶も営んでいる。 弟が和菓子屋を引き継ぎ2代目として仕事に励む傍らインターネットの店舗なども作って、今や売れ筋のイチゴ大福の季節は休む暇のないほどの忙しさだ。 弟の嫁が2店舗目の喫茶の方を担当していたのだけれどめでたく妊娠して人手が足りなくなり、丁度仕事を辞めたばかりの私に白羽の矢が立った。 仕事と人間関係と恋愛、言ってみれば人生に疲れ切っていた私は給料の良さに負けて家業の手伝いを快諾した。 そうしてこの秋、私は30にして看板娘として店を切り盛りすることとなった。
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