石像の大地

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「とーちゃん!」 洞窟内で声がする、犬丸が掘りに行った方とは別の穴だ。 シエンの声だろう。 「なんだ、シエン」 「来て!あ、いや、来ないで!ちょっとだけ来て!」 「あ、あぁ…何だ?」 「か、紙…」 「おま。大?」 「違うよ…股、拭くの…」 洞窟の岩陰に隠れながら恥ずかしそうに呟くシエン、実際恥ずかしいだろうな。 「ほら、合成用の紙だけど拭けるよな?多めにやるし、ミネラルウォーターも渡すから手も洗ってこい」 紙とミネラルウォーターは10レベル適正地域で手に入れる事が出来る、比較的簡単だ。 俺はたまたま初心者とパーティーを組んで手伝っていた際に拾ったりしたんだろう。 「とーちゃん、ありがと…」 「気にすんな。気にするとしたら…今のは俺じゃなくて同性の那奈を呼ぶべきだった」 「…うん、でも咄嗟にさ。とーちゃん、いつも助けてくれるし、ついつい」 頼られるのは嬉しい。 人の役に立つのも。 だけど今回は別だろうよ。 「あるじ!ヤバいぞ、鉱石がわんさか出るぞ!」 隣の洞窟から声がした、シエンの元を離れてそちらに行くと妙に満足げな犬丸が鉱石をバッグに入れている。 量から察するに、ゲーム内で掘って出てくる鉱石の量とはあまり変わらない様だ。 「あるじ露店を出そう」 「…馬鹿、売れないよ。それはあくまで装備を強化、あるい作成する為のアイテムだ。狩りに出掛けてるプレイヤーなんて滅多なもんだろ」 確かに犬丸の出した鉱石は売れない鉱石ではない。が。 時期が悪すぎた。 「NPCに買い取ってもらうしかないのか?」 「だろうな」 NPCとは、ノンプレイヤーキャラクターの略だ。 プレイヤーのストーリー進行を助けたりする進行上必要なキャラであり、ショップや銀行システムを司っている。 「にゃわん…」 「困ってるのは分かるよ、猫か犬かは分かんないけど」 「主の前では犬の様に、他者の前では姫の様に、常に優雅な猫の様に…」 「わかったわかった」 話を区切って終わらせる。 常に優雅とは、逆にいつ犬丸が優雅だったか聞きたいもんだ。
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