28人が本棚に入れています
本棚に追加
「シエン、大丈夫か?」
「あー…う、とーちゃん?私、死んだの?」
「そうだ、状況を説明できるか?」
「…アレク」
かつて自分のギルドマスターだった人の名前を、呼び捨てで言い放つ。
「『闇市』アレク、その他数名…。クロさんは言ってた、多分目的は『猫の集会』から集めたお金なんじゃないかって」
ゾクリとする。
『闇市』のギルドマスターは一体どうやってその情報を仕入れたっていうんだ?
思考が、停止した。
「犬丸ゥゥゥゥゥゥウウウウウ!!!」
叫ぶ。
目の前にいるシエンの事なんて見ずに、周りにいるプレイヤーもNPCも気にせず。
猛々しく。勇ましく。
獰猛な獣のように。
「はいー!」
四足歩行、獰猛な瞳。
地面を削るように走り抜ける疾風の物影がやってくる。
紛れもない犬丸姫で、
紛れもない犬丸姫なのだが、
それは姫と呼ぶには優雅さも慈愛も優しさもなかった。
犬丸と呼べる程可愛い者ではない、鋭い眼孔に荒ぶった気配は狼と呼ぶに相応しい。
「狩りの時間だ」
「はい」
シエンは何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。
まさしくその姿は争いを好む修羅そのものだった。そしてその隣にいる犬丸姫も、その従者に相応しい威圧感を背中に持っている。
シエンにとって『とーちゃん』は師匠の存在だった。しかしシエンの見ていた『とーちゃん』は六刃の一人としての『とーちゃん』ではなかった。
六刃の風、とわ。
最強にして疾風に去ったトワイライト・イルミス・エーベルヴァインの弟子、旋風のとわ。
「シエンは後から来い、犬丸はシエンに騎馬笛を」
「私に乗れるかどうか…」
「乗れろ」
威圧的な声に押される。
乗れろ、もはや、命令ですらない。
「…心配すんな、お前なら乗れるさ。お前は百レベルの俺達と一緒に狩ってきた、そんな馬一匹乗れなくてどうする」
とわの顔が軽く緩み、
そしてまた引き締まり、騎龍笛を吹いた。やってきた騎龍に乗り、犬丸も同様に乗る。
騎龍に乗れる師に追いつけずして何が弟子か、シエンも追いつくように騎馬笛を吹いて街を駆け出すのだった。
最初のコメントを投稿しよう!