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男は走っていた。踏みしめるは無限の階段。なだらかな坂になっていて、徐々に上に向かっていくのがわかる。
吹き抜けている中心を見上げた。2mほどの鯨が、面倒臭そうに上空を泳いでいる。その周りをエイやヒラメが回游する。
「俺も鯨に産まれれば良かった」
そう呟くと、階段制覇を再開する。人間に生まれ落ちてしまった彼は、自らの足を酷使する外無いのだ。
その足が、黄色の段を踏んだ。他の段は全てベージュなのに。
段は、踏まれたそばからピンク色に点滅し始める。彼の心臓と同じリズムだった。
「どうか勘弁を」
彼の願いを聞き入れたのか、段を点滅を止めた。いや、違う。代わりに浮かんだのは『God bless You!!!』の餞だった。
「ラプラスの悪魔め」
段が畳まれた。必然的に、彼は足場を失った。体はよろけ、バランスは崩れ、何かがこぼれ落ちた。重力が捻れて働く。左肩が妙に引っ張られる。
嗚呼、と漏らし、彼は奈落の底へと飛んで行った。
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