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「さみぃ…」
時計台の前のベンチで背中を丸めて座る。
誰にも聞かれることのない僕の言葉は白く口からでた。
何時間たっただろう…
君はまだ来ない。
五本目のタバコに火をつける。
彼女と付き合い始めた頃に止めた筈なのに、胸ポケットには見馴れた銘柄の箱がはいっている。
白いダッフルコートの君はまだ来ない。
石段に居る恋人たちをいつの間にか見ている。
ぼんやりと眺めてしまう。
早く来ないかな…
凍え震える右手を温めながら思った。
12月の今日は冷える。
暗いクライ空から白い粉雪が降る。
僕の携帯に連絡は来ない。
謝るつもりの身勝手な約束の日。
君はまだ来ない
自分の携帯に何度も目を向ける。
携帯はただ無音を守っていた。
鳴らない電話を僕は何度見ればいんだろう…
携帯を握握りしめ、つい暗い顔になってしまう。
いつもの君の笑顔が見たいよ…。
見れたらきっと寒くないのに…。
-あの時何て言えばよかったのか-
君は怒っているのかな俺の事。
来てはもらえないのかな?
いや…来なくてもいい
その時は僕が会いに行くから…
君を想う。
そしたら、きっと僕は君に逢えるさ。
粉雪は止まない
僕に優しく降り続く。
行き場のないこの想いも埋めてくれればいいのに…。
タバコはポロリと凍えた地面に落ちた。
街灯の点滅は僕の迷いを具現化しているようだ。
雪は止まない。
君は来ない。
ふと、街灯が階段の向こうに人影をうつす。
僕は息をのんだ。
それは君がいつも使う階段。
君が居るような気がした。
居てほしいと心が願ったから
でも君じゃない。
何度も高鳴る鼓動が馬鹿みたい。
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