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今日の授業の記憶も、友人との会話の記憶も殆ど無い。
ただひたすら、この瞬間を待った。
「・・・HRはこれで終わりだ。気を付けて帰れよー」
待ちに待ったその言葉を最後まで聞かずして、俺は教室を飛び出した。
「貝中今日・・・っておい!?」
後ろで吉浦が何か言っていた気もするが、正直そんな余裕も無い。
一応、明日謝ることにしよう。
・・・明日があれば、の話だが。
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「ねぇ吉浦くん。何で貝中くんあんなに急いでたの?」
竹内由紀が首を傾げながら、俺に尋ねてきた。
「わからないよ。むしろ俺が知りたいくらい」
「んー何か今日様子も変だったし・・・朝私と話してた時いつも通りだったんだけどなー」
確かに、今日の貝中の様子はおかしかった。
声を掛けても上の空でまともな返答は返ってこなかった気もする。
元気が無いと言うより、心此処に在らずといった感じで。
・・・そう言えば。
「山中が来てからおかしくなったような・・・」
「山中さん?」
竹内由紀ははてなマークを頭の上に何個か浮かべていた様子だったが、
やがて何を考えたか帰り支度をしていた山中さくらの席へパタパタと走って行った。
そして、竹内由紀は山中さくらと何やら会話を始めた。
ここからでは内容は聞き取れないが、山中は驚いているようにも見える。
が、話が進むにつれ表情が厳しいものへと変わっていった。
貝中と、山中さくら・・・か。
「ねぇ」
鈴のような、声。
慌てて顔を上げれば目の前に山中さくらが居た。
・・・思考に集中し過ぎていたかな。悪い癖だ。
「何かな?」
山中さくらは少し何かを考える様子であったが、思い立ったように口を開いた。
「聞きたい事があるの」
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