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サァ、と風が夏の気配を運んでくる。
その風は、綺麗に舗装された道を歩く一人の少女の黒い髪を巻き上げた。
その髪を一束にくくる黄色いバンダナが揺れ、前髪を揺らす。
風に遊ばれる前髪の隙間から覗くのは、不機嫌そうに細められた漆黒の双眸。
この少女の名は、神崎黎(かんざきれい)。
彼女は今、とある用事のために、県内でも有数のお嬢様高校へと歩を進めていた。
しばらく道なりに歩くと、不意に道がより一層綺麗になる。
黎が右手側を見れば、いつの間にか視界いっぱいに意匠の凝らされた青銅色の金属の柵が広がっていた。
その柵の向こうには楽園と見間違うほど整備されたカラフルな花園が広がり、少し奥には白磁の噴水が見える。
更に奥には、少々古風なレンガ作造りの美しい大きな建物がそびえていた。
もはや見慣れたそれらから視線を外すと、黎は更に歩く。
そこから100メートル程歩を進めた先に、ようやくこの高校の校門が見えてきた。
「おう、黎ちゃん! 今日も来たのかい!」
校門につくと同時に、顔なじみの警備員が黎に声を掛ける。
黎はそれに会釈することで応えると、校門の漆喰塗りの白い柱に背を預けた。
時刻は午後四時半。
大体どの高校も授業が終わり、下校を始める時間だ。
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