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目が覚めると、やはり職を失っていた。ひとたび外へ出る理由を失ってしまうと、起き上がる気力さえ軽く、首を起こす力すら湧いてこないらしい。漸く布団から這い出したかと思えば、のそのそと脚を引きずるように廊下を歩き、排泄に向かうのみであった。
ひとたび便座に腰を下ろしてしまうと、種を蓄えた向日葵のごとく頭を垂れ、目蓋は重く、時おり長細い嘆息を誰にも聞こえないよう吐くのみで微動だにしない。明日をも知れない我が身を思えば思うほどに、頭は男の首では支えきれずに下がっていくのであった。そしてまだのそりと立ち上がり、ベッドの安寧を目指して歩き始めるのである。
「どうしておれが」
男は独りごちた。
生まれたときから物事を器用にこなす質ではなかった。ただ頭は悪くなかったようで、一流の大学を卒業し、それなりの企業に就職し、そしてさしたる失敗も無く大した成功もしなかった。その癖、自尊心だけは一丁前で、自尊心が祟って友と呼べる者は少しも居ない。そんな質なものだから、こうして職を失い誰にも顔を出さずに寝ていようとも、慰めの一つも来ないのである。
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