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世の中不況だと騒がれている毎日。
まさか自分の勤めている会社が倒産になるとは思わなかった。
荷物を抱えて『まるや』という中華料理店ののれんをくぐると餃子やらラーメンの香りがして私の幼い思い出をノックした。
「いらっしゃいませ!って…望?」
奥から顔を出したお母さんに私は困ったように笑った。
「ただいま」
「えぇ!?望!?」
慌てて中華鍋を持った兄と父さんが奥から顔を出してきた。いつも通りな家族に私は少し安心すると席に座った。
時間帯が微妙な時間だからか客は数人しかいなく、私は母さんにラーメンを一つ頼んだ。
「ラーメン一丁!…あんた会社は?有給でも取ったの?」
母さんは私を怪しむように見つめた。まるで学校をサボったのかと問い詰めるような目に私は少し笑った。
「違うよ。サボったわけじゃないよ」
「そうよね…あんたは幸助(こうすけ)とは違うものね」
「母さん!酷い!」
お兄ちゃんは嘆くように笑って餃子を持って来た。ちょうど焼きたてなのか湯気がもくもくとたてて美味しそうだ。
「ありがと」
「いいから食え。望が帰ってくるなんて久しぶりだなぁ!明日香(あすか)は冷たいし兄ちゃん寂しかったんだぞ」
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