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明日香の願いに頭を傾げながら私はお盆に湯のみを乗せた。
でも、ラーメンに熱いお茶って合うのかな。
店の方に顔を出すと厨房にはお父さんしかいなかった。
「望、あそこのテーブルだ」
お父さんに言われたテーブルを見るとお兄ちゃんと一人のお客さんが座っていた。
「望、こっち!こっち!」
「うん」
ゆっくりとこぼれないように歩く。私はドジだから気をつけないと。
「ゆっくりで良いよ。望ちゃん」
お兄ちゃんの目の前に座っていた人が私に笑いかけた。
彼の声は私の大切な思い出の鍵をぼろぼろと開けていく。
視線、声。笑顔。
「望、こいつ覚えてるだろ?新田真治(にった しんじ)」
「久しぶり、望ちゃん」
「真治がさお手伝いさん探してるんだって!望やってみろよ」
何かお兄ちゃんが言ってたけれど私の耳には何も入ってこなかった。
ゆっくり、ゆっくり。
私はあの頃を思い出していた。
私の小さな小さな片想い。
私はあの頃片想いをしていた。
初めての恋だった。
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