第1章

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――おじさん。戦場での一騎討ち。すっげぇ格好よかった!  屈託なく、一点の濁りもない孫策様の声音に私は呆然となった。私は孫堅様を見た。 ――俺の教育方針の一貫でな。齢三つの時から、戦場に連れてきて、戦を見せている。今日の俺とお前の一騎討ちを見て、どうやら策はお前の武芸の腕に惚れてしまったらしいのだ。  孫堅様は言いながらゴツゴツとした右手で孫策様の頭をぐしゃぐしゃと触る。 ――おじさん、僕に武芸を教えてよ! 僕、強くなりたい。父上を越えたいんだ!  孫策様の無色透明、真っ白な叫びに孫堅様が豪快な笑い声を上げた。 ――こいつ、大きく出よって。俺を越えるとは。だが、それで良い。それでこそ江東の虎、孫堅の嫡男だ。  息子の頼もしさに嬉しそうな孫堅様。私はフン、と鼻を鳴らした。 ――小僧。親父を越えたければ、親父に教わればよかろう。  私は敢えて突き放すように言った。孫親子の空気に引きずられっ放しの自分自身に些か腹立ちを覚えたからだ。 ――賊の頭よ。俺はもうじき江東を離れなければならんのだ。  私の不遜な態度に腹を立てた様子もなく孫堅様は微笑しながら言った。 ――先日、朝廷から使者が来て近々、黄巾賊討伐の為、中央に出征する。
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