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「こいつ。俺にもっと大物を仕留めろと催促するか」
孫策様の声は太陽に照らされているような暖かみを私に与える。
「陳武! 森林に入るぞ!! あそこには虎の住み処があると訊く」
孫策様は隣で馬に跨がる、陳武という大柄で黄色掛かった肌の男に言った。
「えぇ! 若。本気ですかぃ? あの森林の虎は狂暴で有名ですぜぃ」
困惑する陳武を見て、孫策様は大声で笑った。笑い声一つで人をここまで明るい気持ちにさせてくれるのは彼くらいだろう。
「何を恐れるか。いかに狂暴な虎だろうと、俺は江東の虎孫堅の息子だ!! 野生の虎など、逆に喰破ってやろう!!」
颯爽と孫策様が森林へ馬を走らせる。
「わ、若ぁ。待ってくだせぇ」
陳武が慌てて後を追う。
私は微笑ましい気持ちで、その様子を眺めた。
虎の住む森林に入る主君の息子を笑顔で見送る教育係。他国の同じ立場の人間が見たら、「何を考えている!! けしからん!」。と、さぞかし目を剥くことだろう。
主君の息子は過保護なくらいに守り、徹底して危険を排除していく。一般論はそうだ。だが、私が仕える、孫策伯府にそれは当てはまらない。
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