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若冠十七歳にして彼の武量はそこいらの武人を凌駕するものになっていた。
幼き日から彼に武術を教えていた私でも今現在は彼に手も足もでない。一応、言っておくが私も腕に自信がないわけではない。二十代前半の頃は、"人斬り王憲"という異名で恐れられていた。
ちょうど、あの頃だった。孫策様の父孫堅様と出会ったのは。
☆ ☆ ☆
当時、私は徒党を作り、その頭をしていた。私の徒党は孫堅様に討伐され、私は捕らわれた。
縄目にあい、死を覚悟していた私は孫堅様を睨み付けた。
――さっさと、斬るがいい。覚悟はできている。
私の挑発的な言葉。孫堅様は穏やかな表情で言った。
――野盗にしては見事な覚悟よ。腕も見事なものであった。
孫堅様は私との一騎討ちで負った腕の傷を眺めながら、江東の虎の異名通りの鋭く血走る眼を見開いた。
――俺はなんの悔いもない。孫堅。あんたはいずれ天下に名を轟かすだろう。俺はそんな男に手傷を負わせた。江東の虎に手傷を負わせた野盗として後世に名を残せるなら本望よ!! さぁ斬れぃ! 野盗には野盗の意地がある。
私は目を閉じた。本当に悔いはなかった。乱れる中華大陸。衰退する漢王朝。悪政。重税に苦しめられついに餓死した父母兄弟。野盗に身を落とした自分。
私は世の中に生きる場所ではなく、死に場所を求めていたのかもしれない。
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