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孫策様は大喬の肩を再び掴み、大喬の顔を覗き込んだ。大喬は目を横に背けた。
「一年前、お前が俺の所へ許嫁に来た時」。孫策様が優しい声音で口を開いた。
「俺は本当に驚いたよ。こんなにも美しい女が居たのか、ってな」
大喬はゆっくりと孫策様に顔を向ける。
「覚えているか?」。孫策様は言葉を続けた。
「俺達の婚前祝言の席で魚の骨を喉に詰まらせて苦しんでいる老人が居たのを」
私は記憶を辿った。孫策様の婚前祝言、そう言えば、そんな事があった。突如、宴席で倒れ、顔を紫色に染め、生死をさ迷っていた年老いた男が居た。確か、あの時、
「大喬、お前は何の躊躇いもなく老人の口に手を入れた。そして骨を吐かせた」。
孫策様は大喬に力強く語り続ける。
「吐瀉物まみれの手も気にかけず、あの時、お前はこう言ったんだ。あぁ、命が助かって本当に良かった、と。あの時のお前の優しい表情、ホッとして流した涙、俺は一時も忘れた事はない!」
「孫策……様」。大喬は泣いている。しかし、先程までとは違う涙、そんな風に見える。
「俺は宴会が終わった後、馬に乗り、誰も居ない丘まで走った。そこで叫んだ。叫ばずにはいられなかった! 大喬を妻にできて俺は幸せだ、と」
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