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「何かにつまずいた時、ぶつかった時、よくここに来る、と親父は言っていた」
孫策様は天を仰ぎ見た。明るくなり始めた空に孫堅様の姿を映しているのだろう。
「策、辛い時でも悲しい時でも明るく快活に覇気を忘れるな、大きな背中で皆を引っ張っていく、それが当主たる者の姿だ、と親父はこの花畑を見ながら四歳の俺に教えてくれたんだ」
孫策様は踵を返し、孫堅様の棺に歩み寄った。棺の傍まで来た孫策様は孫堅様の顔をじっと見つめる。
「親父が失った物すべて、俺が必ず取り戻す!」。孫策様は呉夫人と弟妹達を順番に見回した。そして孫堅様の顔に視線を戻す。
「親父が必死に守ってきた者は俺が一生涯懸けて必ず守り通す! だから、安心して眠れ! 親父よ」
力強く、晴れやかな表情で誓いを立てる孫策様。呉夫人が息子の頼もしさに身を奮わせ涙を流している。
「今、ここに誓おう! 江東の虎、孫堅文台、俺はこの名を絶対に汚さない! 勇壮で偉大なる英雄の伝説を引き継ぐ者として誇りを持ち、真っ直ぐ歩み続ける!!」
私は合掌し、膝を地に着けた。体が熱い。孫策様の熱が、死んでいる筈の孫堅様の熱が私に乗り移ったようだった。
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