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それから俺は一度も家に帰る事はなかった。あの、連絡が入るまでは……。
プルルルル…
知らない番号が携帯の画面に映る。
たまたま目に入ったその番号に、吸い込まれるようにして俺は電話をとった。
「はい。」
「あの、井上和幸さん?こちらxxxのxxxですが…。」
「あの、警察の方が何で…??」
「あ、はい。それがですね、自殺されたのが今日午前あたりで…」
ーー自殺…?
正直驚いてはいなかった。
自殺するのが分かっていた訳ではないが、心が静かなのだ。
でも、知っていて知らないふりをした。
「……母ですか?」
「…そうです。」
嘘ではない。本当に命が消えてしまったんだ。そう思うと何時も見ていた空がからっぽに見える。
「わざわざすみませんでした。」
淡々とした口調が相手の気に引っ掛かったのだろう。
「……あの貴方…本当に息子さん?」
「えぇ、一応。」
困った様子で相手は「それでは」とそそくさに電話を切った。
切れた電話は、俺と母とを繋いでいた糸が切れたように思えた。
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