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「嘘……だろ?」
俺は目の前の光景に目を疑った。
デスクの奥、革の椅子に座るばっちゃんの胸に黒い剣が突き刺さっていたからだ。
その小さな体は水分を吸い取られる様にみるみるうちに干からびていく。
「五年ぶりだな。クルス」
「アイズ。何でお前がここに?」
ウェーブのかかった黒い長髪と足元まで丈のある黒いローブは印象を大きく変えていたが、生気を感じない暗い瞳は面影があった。
「もう、大丈夫だな」
黒い柄を握りながら、干からびたばっちゃんを見つめるアイズは低い声で呟く。
それと同時に、アイズは切っ先の尖った黒い剣をばっちゃんの胸から引き抜いて腰の鞘に納めた。
俺はその剣に驚いたように目を見開く。
「その剣は……あの童話に載っていた黒滅の剣[コクメツノツルギ]!?」
そんな俺を余所に、奥の割れた窓ガラスからアイズは一目散に外へと逃げていった。
「逃がすか!」
俺はすかさず後を追い、割れた窓ガラスをくぐった。
雷鳴が轟く豪雨の中、ビル一つ無い住宅街の屋根を猫の様に飛び移るアイズ。
その真っ黒な背中に、俺は怒りをぶつける様に叫んだ。
「待てよアイズ!!何でばっちゃんを殺したんだ!!」
しかし、黒い長髪を揺らすアイズは無言のまま、また別の屋根へと飛び移った。
「シカトしてんじゃねぇよ!」
俺は心の中で唱えた。
悪鬼羅刹 第一形態・砲
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