霊能者

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 彼女は言った。「私、貴方には見えないモノが見えるの」と。  僕は、ニワカにはその言葉を信じられなかった。  僕は言った。「だったら、それを証明してみせてよ」と。彼女は、少し黙り込んで、何も無い空間に話し掛けはじめた。  僕は、冷ややかな顔でそれを見守った。  すると、隣から彼が僕に声をかけてきた。「お前、誰もいないのに、何と話しているんだ?」と。僕はキョトンとした。  それから、少し意地悪な顔をして言ってやった。「僕には、お前に見えないものが見えるんだ」と。  彼は、難しい顔をしていた。すると今度は、彼女が言った。「ねえ、貴方、今誰と話しているの? 誰もいないのに」と。  僕はいよいよ困惑しながら、彼女に言った。「君には見えないモノが、見えているんだよ」と。  彼女は不機嫌そうに顔をしかめると、何もない空間に向かって、大まじめになって話しはじめた。「彼、気がおかしくなったのだわ」と。  そうしていると、彼がイライラしながら横から話し掛けてきた。「俺をからかうのは止せ」と。  僕は、惚けた顔をした。すると彼は憤慨して、ソッポを向いて、誰かに話しはじめた。「アイツ、気が変になったんだ」と。  彼は、誰に話し掛けているのだろうか。そこには、誰もいないのに。  ふと気が付くと、彼も、彼女も、同じ場所を向いて、そこに誰かがいるような体で愚痴っていた。  そこにいる誰かは言ったことだろう。「ところで、お前ら、そこに誰かいるのか?」と。
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