黒いセダン

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              いつから、あの黒塗りのセダンはその場所に停まっていたのだろう…… ここは渋谷に程近い、東京都心部の閑静な高級住宅地、立派な門構えの豪邸が建ち並び、各家のガレージにはベンツやジャガーなどの高級車が並んでいる。 その住宅街の中の小高い丘の上にある、古い洋館に石田 拓海は両親と姉の家族四人で暮らしている。 それは七年前、拓海が小学四年生の時の真冬の深夜の事だ。 宿題だった星の観測をするために眠い目を擦り、ダウンを着込み、窓を開けて夜空を見上げようとした時に、その車が不意に視界に飛び込んで来たのだ。 その車は拓海の家を囲む高い煉瓦塀と、歩道を挟んだ路肩に静かに停車していた。  
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