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「また、外を眺めていたの?」
「今夜も雪が降るのですね。」
「冬の間はね、ずっと降っているわけではないのだけど。」
私の夫となる方は、とても優しい、けれど文武に優れた若くして一国の主となられた。
私より、七つほど歳上。
私がこの国に来てから、寂しくないかと色々と気遣ってくださる。
私が毎夜、夜空を見上げているのを、そうっと見守ってくださっていた。
胸元にしまったあの櫛を、衣の上から手で握るようにしながら。
いよいよ明日、婚儀という夜。
「珠姫、君に贈り物だよ。」
「私にですか?」
丁寧に包まれた布を解いていくと、白い布地が見えた。
「…これは…。」
白い、見事な婚礼用の衣だった。
衣には文が添えられていた。
「星を掴むことができるまで生きよ。」
これだけしか書かれてはいなかったが、誰からの文かは直ぐにわかった。
「父上。ありがとうございます。」
私は衣と文を抱き締めた。
涙が止まらなかった。
『いつか、そなたに星をとって持ってくるような男が現れるのだな。』
そう言った時の寂しそうな、でも楽しそうな。星空を見ているのか、それとも未来を見ているのか。
その時の父上のお顔を思い出した。
「珠姫?」
「あの、お願いがあるのですが。」
「なんだい?」
「明日の婚儀にこの衣を着てもよろしいですか?」
「…。」
「折角、立派な衣を用意していただいたのですが、この衣を着たいのです。どうか、お許しいただけないでしょうか?」
「いいよ。」
「よろしいのですか?」
「珠姫の、大事な父上からの贈り物だからね。」
「ありがとうございます。」
父上の、大事な贈り物。
私は衣と文を再び抱き締めた。父上の温かさが伝わってくるような気がした。
私は、夜空を見上げた。
先ほどまで降っていた雪は止み、雪雲の隙間から星が見えた。
「もし、私が星を採って、と言ったら、採ってきてくださいますか?」
「そうだね、どの星が欲しいの?」
私は吹き出しそうになりながら、夫となる殿方の顔を見た。
優しい笑顔のあなたがいた。
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