2/8
前へ
/8ページ
次へ
とても寒い寒い夜。 星が観たくて外へ出た。 周りには雪が積もり、月明かりに照らされて明るい。 けれど、空を見上げれば満天の星空。 私は幼い時の、満天の星空の下、父上と過ごした幸せな一時を思い出した。 私は幼い頃、夜がくるのが怖かった。 日が沈んで、暗闇一色になるのも怖かったが、それより、夜空を見上げているのが怖かった。 夜空に溶け込んで私が無くなってしまいそうに感じたから。 「星を観にいこうか」 大好きな父に抱かれ、城のすぐそばの丘の上、広い草原で夜空を見上げていた。 私の故郷は温暖な国とはいえ寒い冬、冷えた空気が夜空を曇りなく観せてくれる。 私は夜が怖くて仕方なかったから、しっかりと父上にしがみ付いていた。 空を見上げれば月が輝き、星がきれい。手を伸ばせば届きそう。恐る恐ると夜空に向かって手を伸ばしてみた。 「そなたに採ることができるかな。」 父は笑いながら、私を空に向かって持ち上げた。 私は先刻まで怖かった事などすっかり忘れて、手を伸ばしていた。 「父上、届かない」 「届かないか。もっと手を伸ばしてごらん。」 「うん」 父は目を細め、星をつかもうと、一生懸命手を空にのばしている私を見た。 「そなたとこうして居られるのは、あとどの位であろうな。」 「?」 父上は私を下に降ろし、頭を撫でた。 私は、父上の顔を見上げた。 悲しげなお顔が見えた。 もうすぐまた戦が始まる。父上もご出陣なさるのだ。 「そなたが大きくなり、嫁に行く頃には太平な世の中であればよいな。」 「父上、私はずっと父上の側にいます。お嫁に行きません。」 私がそう言うと、父上は大笑いし、こう言った。 「そうか、ずっと側にいてくれるか。」 「はい」 「それはそれで困ったな。」 そういいながら、大笑いし星空を見上げた。 「いつか、そなたに星をとって持ってくるような男が現れるのだな。」 寂しそうな、でも楽しそうな。 星空を見ているのか、それとも未来を見ているのか。 その時の父上のお顔は忘れられない。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加