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その夜、星空の下で父上と沢山お話をした。
最近どんな絵巻物を読んだとか。
母上のこと、父上のご趣味の話や、私が最近お気に入りの習い事の話を、時間を忘れて話していた。
「そうだ、京へ行ったら何か気に入った物を買ってやろう。」
「京?」
「なんだ母上から聞いておらぬのか。今度、母上とそなたを連れて京の伯母上のところへ遊びに行こうと思っているのだが。どうだ、行かぬか?」
父上は笑いながら、私の顔を見る。
「伯母上のところへ?」
京の伯母上とは、母上の妹。母上とは大変仲がよく、伯父上もとても良い方。
子供は居らず、私が遊びに行くと我が子の様にかわいがってくださる。
「ああ、そなたが大好きな伯母上のところだ。私と母上とそなたと三人で行くのだぞ。」
私は伯母上も伯父上も大好きなので、この時はお会いできるのがうれしくて、
「はい!行きます!」
と、返事をした。
まだ子供だった私は、父上のお考えなど思いもしなかったのだ。
この時、既に戦が始まっていた。
父上のご出陣が近づき、皆、戦の準備に奔走している。
こんな時に京へ遊びに行くなど…少し考えれば判ることだったのに。
大好きな伯母上に会える、そう思っただけで、うれしくて早くその日になれば良いのに。そう思っていた。とても楽しみにしていた。
「そうか、行ってくれるか。」
父上はそう呟いて私を抱き上げた。寂しそうなお顔をされていた。
「さあ、冷えただろう?帰るか」
父上は私を抱き上げたまま歩きだす。
私は来たときと同じように父上にしがみ付いた。
父上の温かさが、気持ちよくて。
幸せな時間だった。
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