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「父上はお珠、お前の行く末を案じて下さったのです。」 母上は、真っ直ぐに私の目を見て仰った。 「戦が始まることは、お前も知っていたでしょう。父上はお前を戦に巻き込まれないように、伯父上の元に養子に出されたの。」 母上の言葉が、胸に響く。 「父上は…。」 母上は黙ったまま、私の目を見て頷いた。 母上もこの時、父上から離縁されていたのだった。 「この話は戦が始まる前から決まっていたこと。父上を恨んではなりませんよ。」 父上はあの時、星空を観に行ったあの時には、もう決めていらしたのだ。 だから、あのような寂しげなお顔をされたのだろう。 胸元にしまっていた、父上に買っていただいた櫛を、衣上からギュッと握るように手を当てる。 父上の優しいお顔が目に浮かび、涙が零れた。 数日の後、父上の軍は敗退。 城も敵方の手に落ち、父上は切腹も出家も許されず、山深い寺に幽閉された。 私は父上に何度か文を送ったが返事はなく、そのまま時が過ぎた。 一年の後、私の婚儀縁組が決まり、京の伯父上の下から嫁に行くことになった。 「伯父上様、伯母上様、母上、私をお育ていただき、ありがとうございました。」 私は、出立の前にお世話になった伯父上、伯母上そして母上に挨拶をしていた。 伯父上は笑んで頷いている。母上と伯母上は、昨日から泣き続けている。 私は、これから夫となるお方の国へと旅立つ。京とも故郷とも違う、冬には雪深くなる土地へと。 婚儀は、戦の無い師走。 私は雪が降り始める前に行かなければならない。 私は、父上に文を書いた。 伯父上、伯母上に大事にしていただいたこと。 母上もお元気であること。 そして、私は婚儀が決まり嫁に行くことを。 そして最後に、父上の下に生まれて来て良かった。 何処に居ても、私は父上の娘であることを誇りに思う、と。 やはり、父上から返事はなく、私は雪国へと向かった。
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