恋敵

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強い意志が宿る瞳を恐れずに見返す。 人混みの中の喧騒が聞こえなくなる。 「若、りおさんの姿が」 ハッと我に返るとりおの姿が見えない。 人混みに流されて自分の居場所も怪しくなる。 樹も辺りを見回すが見つけられない。 藍の浴衣を見つけて慌てて駆け寄った。 掴んだ肩に驚いて振り向いた女はりおとは程遠かった。 「わりい、人違いだ」 2人目の女も、3人目の女も振り向くと違った。 焦るほどに自分の居場所がわからなくなる。 りおの姿を最後にみたのがオモチャ屋の前だったはず。 「若、りおさんのスマホが落ちて」 榊がスマホを差し出した。 土まみれになっている。 土を払うと、金色の龍が龍玉を持って空を舞っていた絵が浮かび出る。 「確かにりおのだ。これはどこにあった?」 「向こうの分かれ道の辺りに落ちてました」 土まみれの携帯に。 忽然と姿を消したりお。 「仁!」 仁の名を呼ぶ。 こういう時には直感が働く仁がいてくれたら心強い。 スマホはここにある。連絡の取りようがない。 樹の姿もいつの間にか見失ってる。 「樹の電話番号」 りおの着信履歴、発信履歴に残ってるはずだと思い当たる。 液晶画面が割れ電源を入れ直してもつかなかった。 「くそっ!」 放り投げたかったが振り上げたスマホを投げつけることはできなかった。 「若、二手に別れて探しましょう。仁は南口から。若とわたしは北口から」 「わかった」 仁も駆け出し俺と榊も藍色の浴衣を探し時間は過ぎていく。 7時。 花火が上がる時間になってもりおの姿を見つけられない。 「いったい、どこへ」 嫌な予感がする。 頼む。無事でいてくれ!
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