13734人が本棚に入れています
本棚に追加
/2776ページ
苦しげに呼吸して眉を寄せ、ハンカチから染み出た血が滴り落ちる。
少しの動きにも敏感に反応を示す。
「若、仁と一也が到着しました。店の者には一本渡しときましたので騒ぎにはなりません。若、そのお嬢さんはわたしがお連れします」
彼女を抱き取ろうとして差し出した榊の腕を見る。
「いや、俺が運ぼう」
「…若?」
榊の怪訝そうな声。
「行くぞ」
伸べられた手を断り、彼女に負担が掛からないように包み込みゆっくり抱え上げた。
「悪りぃな、少しだけ我慢してくれ」
耳元で告げ、ゆっくりと歩き車へ乗り込んだ。
「仁はいるか?」
ベンツのウインドウを下げさせ顔を寄せた仁に声を掛ける。
「仁、俺の後ろをついて来い。前広、成田のとこに急げ」
抱き抱えた腕の中の彼女は青ざめたままだ。
出血量が思ったよりも多い。
真っ赤な液体が彼女の服や俺のスーツを染めていく。
早く医者に診せなくては。
「急いでくれ」
千切れた指も、腫れ上がった左腕も手術が必要だ。
俺を庇ったばかりにこんなケガを負わせてしまった。
彼女を見ていられなくなって目を反らした。
「若、もうすぐ成田のところに着きます」
「わかった」
顔を背け窓の外の流れる景色を見た。
「あなたのお名前は、」
―――名前
榊が訊ねるのをじっと聞いていた。
「…天宮、りおです」
あまみや りお
それが、俺の命の恩人の名だった───
最初のコメントを投稿しよう!