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徹也が何を言おうとしているのか、分からなかった。
徹也の唇が、かすかにゆがんだ。
笑ったようにも見えたが、自然な表情ではなかった。
「だがな、なんといっても、おれのほうが付き合いは古い。直樹のことは、なんでも知ってる。おまえがおれと張り合っても、勝ち目はないぜ。」
「張り合うつもりはないよ。」
「それならいいが……。」
徹也の目が、いくぶん和んだ。
「おまえが張り合う気なら、おれはフェアに勝負したい。これからいっしょに病院に行くか。」
「今日はだめだ。」
自分の声がひどく冷たく響くのを感じた。
徹也は顔をしかめた。子どもみたいに困惑した様子を隠さなかった。
「すねるなよ。」
「すねてるわけじゃない。」
僕の肩をつかんでいた徹也の手の力が、急に緩んだ。
「分かった。今日はおれ一人で行く。でも、明日かあさって、必ず見舞いに行ってくれよな。直樹は、やばいかも知れない。」
「やばいって?」
「今は、それしか言えない。」
徹也は目を伏せた。
今度は僕が、徹也の腕をつかんだ。
「医者が何か言ったのか。」
徹也は答えなかった。
僕の手を振り払うように小さく肩を揺すり、校門に向かって足早に歩き始めた。
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