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九月の模擬テストの結果が出た。
コンピューターでプリントされた小さなカードがクラスの全員に配布される。
偏差値がいくらになろうと、どうでもいい気がした。
でも少しは気になるので、カードの数字を眺めた。
横ばいだ。
夏休み、あれだけがんばったのに、と思わずにはいられなかった。
でもみんな塾に通ってがんばっているのだ。自分の成績だけよくなるわけがない。
もっとも、みんなががんばっているのだからという言い訳は、母には通用しないだろう。
教室の中は、沸き立っていた。
模擬テストの成績というのは、公立中学の三年生にとっては、最大の関心事だ。
結果がよかったやつも悪かったやつも、興奮ぎみに、歓声ををあげたり嘆いたりしたりしている。
ざわついた空気が、胸を押しつける。
「なんだか、元気ないな。」
斜め前の席にいる東山(トウヤマ)が、振り返って尋ねた。
東山だけは、冷静だ。
「気分が乗らないんだ。こんなことに一喜一憂してもしようがないだろう。」
「僕もそう思うよ。試験に失敗したって、命を取られるわけじゃないし。」
東山は軽い気持ちで口にしたのだろうが、
『命』という言葉が、ずしりと胸に食い込んできた。
僕の顔色が変わったのに気づいたのか、東山は心配そうに僕を見つめた。
「ほんとに、気分が乗らないみたいだな。」
僕は黙って、小さくうなずいた。
「音楽高校を受けるかどうかで、まだま迷ってるのか。」
「それもあるけど……。」
言葉を濁した。
東山もしつこくきこうとはしなかった。
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