運命

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2011年の春、僕はベッドの中で眠っている。 すると、突然誰かが僕のベッドに駆け寄ってきて、僕の身体を揺する。 「ねえ、パパ、起きてよ。今日は動物園に連れていってくれる約束でしょう?」 その声に、ゆっくりと目を開けると、四歳になる娘がニコニコと笑顔を浮かべながら立っている。 「ああ、そうだったな」 僕はそう言いながら、ゆっくりと体を起こす。 僕は就職して一年後、一人の女性と知り合い、結婚した。 そして、娘が生まれ、そこに暖かい幸せな家庭がある。 これまでにいろいろなことがあった。 東京大学には合格できなかったし、一流企業にも就職できなかった。 もしも東京大学に合格していれば、あるいは一流企業に就職していれば、社会的な地位や名声を手に入れることができたかもしれない。 だけど、妻と出会うこともなかっただろうし、こうして娘ができることもなかっただろう。 そう思えば、僕が僕自身の選択によって東京大学に合格することができたり、一流企業に合格することができたりするといったことがなくて良かったと、真に思う。 僕は今でも、人間の運命は始めから決められていると思う。 だけど、それは悪い結果から逃げるためのものとしてではなく、いま僕の目の前にある幸せな現実を手に入れるための道のりだったという意味においての話だ。 (完)
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