女将の足音

5/6
前へ
/489ページ
次へ
「清香、今夜は満月だ。外に出てみよう」 反応の薄い清香の腕を掴み、引き摺るように表にでた。 「見てごらん?まるで女将さんのような月だよ」 今宵の月は紅い。 紅い霞が掛かっているかの様な不思議な月。 「ほんとだ。……女将さんに睨まれているみたい」 「睨んでいるさ!弱気な清香を叱っているんだ」 「なら……叱って欲しい。本当に叱って欲しいのに!」 料理長は困り顔。 清香の頭を優しく撫でるだけ。 「叱っているさ……弱虫清香を……」 昔、女将さんと初めて逢った日も、月が綺麗な晩だった。 (確か、狐の姿で現れて) 料理長が、ぼんやりとそんな事を思い出していると、一際冷たい風が足元を掬う。
/489ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加