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「清香、今夜は満月だ。外に出てみよう」
反応の薄い清香の腕を掴み、引き摺るように表にでた。
「見てごらん?まるで女将さんのような月だよ」
今宵の月は紅い。
紅い霞が掛かっているかの様な不思議な月。
「ほんとだ。……女将さんに睨まれているみたい」
「睨んでいるさ!弱気な清香を叱っているんだ」
「なら……叱って欲しい。本当に叱って欲しいのに!」
料理長は困り顔。
清香の頭を優しく撫でるだけ。
「叱っているさ……弱虫清香を……」
昔、女将さんと初めて逢った日も、月が綺麗な晩だった。
(確か、狐の姿で現れて)
料理長が、ぼんやりとそんな事を思い出していると、一際冷たい風が足元を掬う。
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