女将の足音

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「ううっ、まだまだ夜は冷えるな。清香、もう部屋に戻ろう。温かい珈琲でも飲もう」 「はい……今日はカフェオレがいい」 「ブラックじゃなく?」 「女将さんの香りだから……」 「私の香りがカフェオレ?失礼にも程がある」 振り向いた二人の前。 紅い月を背負うような女将が、悪戯っぽく微笑み佇んでいた。 清香の足が縺れ、つんのめるように女将の胸にダイブした。 「ただいま、清ちゃん」 優しく抱きしめた女将は、変わらぬ声でそう言った。 清香は、離すまいときつく女将に抱きつく。 側にきた料理長も片手で引き寄せ、三人はしっかりと抱き合う。 「おかえりなさい」 言葉はこれだけでいい。
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