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台所から明日菜の鼻歌とともに晩飯のいい匂いが漂ってくる。
……随分と今日は機嫌が良さそうだな。そんなにあの男といるのが楽しかったのか?
うっすら開いた目で台所の方を見遣るも、また溜め息が出た。
思考がぐるぐると暗くなっていく気がする。
イライラを何とかしたくてまた煙草に手をかけかけた。
「翔ちゃん」
俺を呼ぶ声に顔を上げればそばに明日菜が立っていた。
不安げなその顔にまた何故か苛立ちが増したような感覚がする。
「………何?飯出来たの?」
「う、うん…」
自分でも思ったより冷たい声が出てしまった。戸惑ったような彼女の声を聞き流して、俺は食卓につく。
今日はカレーだった。
「…………」
いつもより静かに食事が進む。
今日ばかりは明日菜もあまり口を開かず、ぽつぽつと俺の様子を窺うように話す。
大人気ないとは思ったが、この苛立ちを隠すことができなかった。
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