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私は頭を手で抱えながら、思った。
厄介だ、実に厄介なものを残してくれた。
記憶を削除する前の私は、恐らく決断仕切れなかったのだろう。
だから、記憶を消して、今の私に判断を任せたのだ。
目の前の少女は、私の娘か?
こいつは今何歳なのだ?
いつ知り合った、誰との……?
記憶を掘り起こそうとしたが、どうしても思い出せなかった。
そう、手術は私の青春時代からの思い出を全て削除してしまっていたのだ。
十六歳? 十八歳? 分からない。
私の三十後半の年齢から逆算すると、どうやら私が生まれ故郷に住んでいた頃の年齢に出来た子供だろう。
だが、その頃の記憶などとっくに捨ててしまった。
足枷になるかもしれない過去など、無いほうが良いからだ。
消した記憶すら思い出せないが、きっとそうなのだろう。
『人質』や『遺産』と言った言葉が、思考を通り過ぎる。
これを生かしておいては、必ず未来への負債となるだろう。
必ず、私の存在を脅かす者に利用される。
武器として。あるいは交渉の道具として。
こいつは私の娘なのだ。
この少女が嘘を言っていないのは、本能的に分かる。
だからこそ問題なのであり、今のこの状況は、記憶を消す前の私が今の私に放り投げた重い過去への決着なのだ。
私は時計を見る。
もう、ここを離れなければいけないぎりぎりの時間だった。
これ以上、迷っていられない。
決断しなければ。
私は言う。
「残念だが、始末する。これはどうしようもないことなんだ。もはや変えることなど出来ない」
私は必死に泣き叫ぶ娘の声を聞きながら、ポケットに忍ばせているリモコンを撫でる。
「待って! 置いてかないで、もう、一人は嫌! 嫌! お父さん!」
私はそれに対する返答をしない。
言葉も持ち合わせていない。
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