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数時間後、私は専属の医師のいる病院にいた。
「記憶の消去ですか?」
と、医師は言う。
「そうだ、今すぐにだ。消してくれ。もう、悩まなくても良いように」
医師にそう告げると、私は手術の開始と、それから終わりを待った。
これで良い。
嫌な記憶は全て消えてなくなるだろう。
「手術は成功です」と、医師は言う。
「でも、本当に良かったのですか?」
私は医師にそれ以上の事は言わせない。
「手術の時に記憶を覗ける君ならば、事情は察しているだろう。だが、他言無用だ。私の敵になるつもりなら君を消すぞ」
医師は「いえ、決して言いません」と言う。
そして、医師は病室へと私を案内してくれた。
病室に入るなり、医師は言う。
「こんにちは。身体の調子はどうですか?」
医師の視線の先には、一人の少女がいた。
その少女は衰弱しきった弱弱しい身体を持ち上げながら、私達二人をじっと見つめていた。
「この方は、街で倒れていたあなたを見つけて、病院に運んでくれた人ですよ。手術をしなければ命に関わってました。危ないところだったんですよ」
「エリナさん」と、医師は彼女の名前を呼ぶ。
「ああ、あなたが。どうもありがとうございます。私、何を探してあんなに歩き回っていたのか本当に分からなくて……どうもありがとうございました」少女はそう言うと、私に微笑みかける。
「エリナさん。元気になられて何よりです。大事に至る前に手術できて良かった」
私は微笑み返し、記憶を失った、孤独な少女の手を握る。
そう、手術はこの娘に受けさせた。
私の娘である、この少女に。
「手術のお金は私が立て替えておきました。でも、お金は返さなくても結構です。それに失礼ながら君の事を調べさせてもらいました。私は恵まれない子供のための慈善活動をしていてね、君を援助しようと思う。学校にも行くといい。暮らしていく家も用意した。月々に使えるいくらかのお金も支給される。学校を出たらきちんと働いて、社会に尽くしなさい」
私はそう言うと、じっと少女の顔を見つめた。
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