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「私が思う本当にやっかいな敵とは、自分の内側に存在する『過去』だ。過去に起きた失敗や悩み、絶望にさいなまれた時間。それらが成功を掴む後一歩のところを邪魔する。事実、私は何度も失敗を重ねた時代があるらしい。忌々しい過去が一番の敵なのだ。付け込まれる要因にもなる。だから君のような存在を始末することに、躊躇いはない。後でこの記憶も消してしまえば良いのだからな」
私はそこまで喋るとタバコを地面に投げ、靴の裏で踏みつけた。
心の中で静かに高まっていく少女への殺気を確認しながら、私は話を続ける。
「話がそれたが、とりあえず、君が敵であることと、ここで始末する準備ができていることを記した手記があった。が、それ以外に君に関する資料は無い。どうやら、手術を受ける前の私が全て破棄していたようだ。部下に聞いても君の事を誰も知らない。だが、今から調査を開始するのは、時間の浪費以外の何者でもない」
ふと、少女が泣いているのに気づいた。
私は少女の頭を掴み、顔を上げさせる。
「早く答えたまえ。答えなければ、すぐにでも君を殺す。君は私にとって、どれだけ邪魔な存在なのだ?」
少女の喉がごくりとなる。
嗚咽にも似た、弱弱しい声が少女の口から漏れている。
私は気にせず、震えている彼女に言ってやる。
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