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「言わなければそれでも良い。君は始末される。それは決定であり、不変だ。ここは邪魔者を『消す』ための秘密の場所の一つでね。君をここまで運んだのは、なぜか黙秘している私の部下の誰かだとは思うが、さぞ骨が折れただろう。ここにあるリモコンを操作すれば、君のいる場所に向かってトロッコが走ってくる。爆薬を積んでね。線路の上に自分の身体があることは分かるだろう? ……この場所が君の墓になる前に一応理由は聞いてはいるが、君を始末することに変わりは無い。今さっきボタンは押してしまった。トロッコが発進するまでに三十分。私も十五分後にはここを離れなければここで一緒に爆発して死ぬだろう。で、だ。それまでに君が私の敵になった理由を教えてくれないか? 名前はなんと言う?」
始末の方法を少女に言って聞かせると、私は手にしたリモコンをそっと撫でた。
このリモコンにはボタンが二つあるが、二つ目のボタンに関しては言うつもりは無い。
ここにトロッコが来るまでの間に、線路を切り替えるポインタがある。
ポインタが切り替われば、トロッコはここには来ず、炭鉱の奥にある地下水脈の水源の中に飛び込み、爆薬も爆発することはないだろう。二つ目のボタンは、そのポインタの切り替えスイッチなのだ。
私は言う。
「やはり言う気はないか。まぁ、良い。もう、すぐにでも私はこの場所を離れる。理由の知れない始末は後味が悪くなるが、それでも別にかまわない。さっきも言ったが、数ヵ月後にこの記憶も手術で削除するだけだ」
そう言うと、私はもう一度だけ少女の顔を見つめた。
少女は嗚咽を上げながら呼吸を整えている。
だが、その口からは、呼吸以外の音が何も聞こえてこない。
私はその場所を離れようと、後ろを向いて歩き出す。
「待って」と、少女の震える声が聞こえたのは、私が自分の足音を数えて六つ目の瞬間だった。
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