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「名前は、エリナです。人を、探してました」と、少女は言う。
「私は、生まれた時から、家族が母親しかいません。母は、未婚で私を生んで、親戚の人たちから絶縁されて、一人で働いて、身体をぼろぼろにさせて死にました」
原因不明のショックが私の中に生まれたのはその時だった。
ありふれた不幸な物語ではないか。何を動揺する?
私は振り返ると、少女の目を見やる。
強い目をしていた。
先ほどそこにあった怯えや恐怖と言ったものは姿を消し、そこには意思を伝えようとする、人を貫き殺すような視線があった。
「母は倒れた時、私の父親のことを話しました。母は父を強く憎んでた。愛し合っていたのに一方的に捨てられたって。私の手を握って、探し出して殺してくれって、咳をしながら言ったの。でも、私、そんなの嫌だった。一人ぼっちは嫌だもの。それまでだって、ずっと一人だった。食べるものも無くて、働きに出てる母を家で震えながら待ってた。もう、一人は嫌だって、そればっかり思った。父親を探してたのは、それが理由」
そこまで聞いた私は、「で、それが私に何の関係があるのだ?」と言ってみた。
だが、少女はそれにはかまわず、話を止めない。
強い頭痛が始まった。この少女の口を閉じなければ。これ以上話を聞いてはならない。
だが、エリナと名乗った少女は自分の話を止めない。
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