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「随分と余裕ですね」
「…………!」
男は、声のした方をぎこちなく、ゆっくりと見る。
薄暗い路地、10m程離れた場所に、顔は暗くてよく見えないが、スーツ姿の男が立っている。
スーツの男はこれといった動きはしていないのだが、逃走していた男は目を見開いて、先程とは違い、明確に身体を震わせている。
「こんなに速く…………!?」
「この路地裏の地形は把握済みですからね。先回りでも何でも出来るんですよ」
「…………くそぉ!」
男はまた、スーツ姿の男とは反対方向へ逃げ出す。
足取りは非常に覚束なく、たまに転びそうになる。
それでも逃げる。
「ハァ゙ッハァ゙ッハァ゙ッ……!! …………!」
男は急に走るスピードを上げる。
男の50m先には、光が差し込み薄暗い道を照らしている。
つまり出口だ。
(外に出ちまえばこっちのモンだ! 人混みに紛れちまえば逃げ切れる!)
活路を見出だした男は、このリアル鬼ごっこを、地獄を終わらせようと全力で走る。
そして-----
「……!」
男は地獄道を出て、光に飛び込む。
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