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「なるほど。確かに最近の男子というものは甚だ軟弱だとは聞くけど、しかし、君という男はどうやら例外らしいわね」
そう言って、彼女は僕の前に唐突に現れた。
いや、実のところ彼女とは言ったものの、性別は判断できないのだが。ただ、その考えてきたかのような饒舌がいかにも女子の声質であったというだけなのだ。
顔が判断できないのである。
彼女はこの真夏には暑いに違いない、黒いコートを羽織り、全身を黒ずくめに揃えている。体格的には高校生ほどであろうか。
しかし、それだけでも奇妙なのだが、ただ、一層異様なことがあった。
それは、中心に赤色の点をあしらった青くて丸いもの、つまり、ドラえもんのお面に覆われていたのだ。
何がつまりなのだか、正直自分に訳が分からないのだが、しかし、やっぱり、僕の目の前にいるのは、ドラえもんのお面を装備し、そして、その肩には、おそらく彼女の等身ほどあろう、巨大な大鎌を携えた少女であったのだ。
じりじりと肌を焦がす太陽に対して、それを増長せんとするような、べったりと濃く塗りたくられた面の青。本来涼しげな感覚を誘うべきであろうその色は、ただ不気味に、そして、まとわりつくように、僕の脳に恐怖という感情を浸透させていく。
どうしてこうなったのか。震える手にも、暴れる心臓にも、所詮、聞いたところで何の返答も返ってこないのだろう。だって、僕は何も知らないのだから。
けれども、ただ一つだけ見当がつくものがあるとすれば、それは僕の背後にいるワンピースの少女、ただ一人だ。
すっ、と、首元に冷気を感じた。この夏に全くありがたくない冷気である。青猫仮面の少女の大鎌が僕の首筋にあてられた。
「……ただ、例外だとか、特別だとか、そんなものには、残念ながら興味もないし、ましてや、節操のない男は、私の嫌悪するものとして高く位置付けされているの。不運だったわね。けれどまあ、同情なんて、ミジンコの毛ほどもしないのだけれど。同情なんて掬われて、食われればいいのよ」
機械猫の面の彼女は、つらつらとつぶやき、そして、大きく鎌を構えた。一振りで僕を両断できる間合いだ。
「さて、覚悟はいいかしら」
僕は大きく首を横に振る。
「そう、あなたの強い覚悟、この胸にしかと受け止めたわ。
……それじゃあ、さようなら」
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