2人が本棚に入れています
本棚に追加
ここで無視をして通り過ぎてしまえば、僕はこの少女に関わることもなく、いつも通りの生活に戻るのだろう。けれども、今、ここで、助けを求めるその手を取ったなら。
……なんて、考えるまでもない。答えはすでに決まっているのだから。
とうの昔に。
ただ変化が欲しかったのだ。この苦しすぎる日常に。それが自ら招いた災厄であったとしても。何であっても、誰だって、辛酸なり苦渋からはどうしたって遠ざかりたいものだ。離れなければ心が死ぬ。
だから、僕から見れば、このワンピースの少女はその存在以上に希望の光なのだ。暗闇に彷徨う蛾が明るい光に誘われるように、僕も彼女にゆらゆらと惹かれてしまう。
僕は倒れている少女に前で立ち止まった。そして、彼女が伸ばす手へと僕の手を差し伸べた。
おそらく、僕は助けてなんて言われなくったて、彼女の手を取っていたのだろう。なんたって、それは長年求め続けたものだったのだから。
もはや、願いが叶ったと言っても過言ではない。
「……たす、けて」
もうそんなことを言わなくてもいい。むしろ、こちらから助けてくれと、この何も知らない少女に叫んだってよかった。
けれども、さすがにそれはいい迷惑だろう。彼女にとっても、近所の人たちにとっても。
だから僕は泣いて飛びつきたいこの気持ちを、奥歯を噛みしめ押し込めて、敢えて言った。
「――助けてやる、何があっても」
最初のコメントを投稿しよう!