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▽
「……あの、すいません、えっと、私、どうやら記憶喪失みたいです」
開口一番、彼女が言い放ったのは、そんな訳の分からないことであった。
あれから、僕が彼女を助けると宣言したそのあと、道端でいつまでも倒れているままだと迷惑だろうということで、僕たちは場所を移した。
移動場所は家の近くにある公園だ。そこにあったベンチに彼女を座らせ、話を聞こうとした、……のだけれども、先ほどの第一声、まさかの記憶喪失宣言によって、僕は呆然としてしまった。
「んん、もう一度言ってもらってもいいか、最近耳の掃除を怠っていたもので。すまないけれど」
「了解です。どうやら、私は記憶を失ってしまっているみたいなんです」
彼女は白いワンピースのしわを直しながら、そう言った。
聞き違いを期待した僕が間違っていた。
「ってことは、さっきの、助けて、ってのは、演技なのか」
「はい。半分、正解です」
……なんか、かなり損をした気分である。結構僕の中では盛り上がっていたのに。謎の組織に追われてる、みたいなシチュエーションかと思ったわ。
「けど、残りの半分は素直に私の気持ちを言っただけ、なんですけどね」
「というと?」
「いや、だって、気づいたら自分の見知らぬ場所に一人ぼっちだったんですよ。それは、私だって誰かに助けを望むほどには心細かったです」
そうだよな。さすがにあの登場は少しオーバーな感じもしたけれども、それでも、怖かったことには違いない。
ぱっと見年下であろうか。ちなみに僕は十七歳で高校二年。だから、年齢としては十五くらいか。
そんな少女が突然何もかも失ってしまったのだ。
僕なら発狂しているに違いない。
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