必然の出会い

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「なんだか、大変そうだけれど、これからどうするとか決まってるのか?」 「いえ、全くと言って決まっていません。と言いますか、決まってるも何も、覚えていないのですから、どうしようもないですよ」  そうだろうな。確固たる目的を持った記憶喪失、とか、何とも不思議であるし。何か使命を背負っているはずなのに、それがまったく分からない、みたいな。  まあ、この場合は帰る家を失ってしまったといった感じか。 「つまり、助けてほしいってことだよな」 「ええ、まあ、そうなっちゃいますね」  そう言って彼女はがっくりと肩を落とした。 「けど、なんでしょうこの感じ。明らかに他人に助けを求めるべきなのに、どうしてか、本当に何となくそれを拒もうとしてしまいます。これも記憶を失っているからなんですかね。自分の性格すら忘れてしまっているなんて。なんかショックです」 「まあまあ、嘆いたって何にもなりゃしないし。これからどうするか、か」 「……はい」 「記憶を取り戻す鍵を探す、とかどうだ」 「あ、いいですね。なんだか格好いい」  よくわからない感性である。 「っていっても、手に入れれば記憶が復活するアイテムを求めて冒険ってわけじゃあないだろうけどな」 「その道中で仲間が出来たりしたら、最高だったんですけどね」 「となると、選択肢はかなり絞られる」 「ぜひ一例を聞いてみたいですね」 「んん、そうだな。無難に頭をぶん殴ってみるとか」 「あまりに野蛮です、速やかに軽蔑します」 「そ、そうか? 結構一般的な対処方法だと思ったんだけど」 「私は一昔前の電化製品じゃあないんですから」 「なら、一層のこと、神社の階段から一緒に落ちてみるか」 「目覚めた時には、もっと大切なものを失ってそうですね」  確かに。例えば性別とか。  にしても、なんというか、唐突に記憶喪失を直せと言われても、案外難しいものである。正直、彼女には野蛮と言われてしまったのだが、頭を叩くという案が僕の中では最有力であり唯一であった。  はてさて、どうしたものか。  ――あっ。  と、彼女が突然言った。
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