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「そうです。そうですよ。ああなるほど」
「ど、どうしたんだ?」
「ありましたよ、案」
「ほう、いったいどんな案だ」
「はい。さっき、あなたは私の頭を叩くとか卑劣なこと言っていましたが」
まさかの卑劣呼ばわりである。
「つまり、頭に衝撃を与えるってことですよね。それなら、以前の私を知っている人に会えばいいんですよ」
脳に刺激をというわけでと、彼女は付け足した。
確かに、というか、どうしてそれを真っ先に思いつかなかったのだろうか。
どうにかして僕の力で彼女を救いたかったのだろうか?
まあ、そんなことも彼女の出した提案が現在最有力であるという事実の前では何にもならない、か。
「じゃあ、そうするか」
「はい」
結局、ほとんど自己解決であった。僕なんていらなかったみたいである。
彼女が親元に帰れば、一件落着、するかどうかは分からないけれど、状況は進展するだろう。
よっこいしょ、と彼女は立ち上がった。
「なんだか、すいませんね。迷惑かけちゃったみたいで」
「何をいうか。僕はこのあたりでは親切で有名なんだぞ」
「へえ、記憶にありませんね」
「記憶喪失だけに、か」
なんだかんだ言って、この短い間で僕は彼女と打ち解けることができたようだ。まあ、打ち解けたところで、彼女を家族の下へ帰してしまえば、それまでの関係なんだけれども。
「しかし、家族を探すといっても、心当たりは……」
「はい。もちろん皆無です。だから、交番にでも行って尋ねてみようと思います」
「……そうか」
冷たい風が二人の間を通り抜ける。真夏には珍しいさみしい風だ。
「そうだ。せめて交番まで案内させてくれよ。このままじゃ、なんの役にも立ってない」
「いえ、そんなことないですよ。あなたは私の手を取ってくれました。どうしようもなく、ただ困惑しているだけの私の手を。だからもう充分です」
「……そうか。お前がそれで満足したっていうのなら、僕はそれでいいんだけれど、ただ、何となくな」
「でしたら」
彼女は唐突に僕の方に向けて手を伸ばした。
「友達になってくれませんか?」
そう言う彼女の顔は、初めて出会った時の、困り果て生気の抜けた表情ではなく、まるで真夏の太陽に向かってぱっと咲くひまわりのような、満面の笑顔であった。
「もちろん。よろこんで」
僕は彼女の手を握り、そう言った。
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