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…―今から数年前、秋の国。
美しく、木々を彩る鮮やかな赤を夜の闇が包み月だけが煌々と輝く夜。
その月明かりだけをたよりに森の中を一人歩く男がいた。
薄闇の中迷うことなく進んでいた男の足が不意に止まる。
更々と風に靡(なび)く美しい髪を揺らし、その隙間から見える月と同じ輝きをした瞳が気配を探るように右へ左へと動いた。
薄く笑みを含んだ形のよい唇を開き小さく言葉を零す。
「…………(木々の匂いに混じり、……なにか別の…)………血か」
匂いの根源を探るように進み、木々たちが着物を撫でていく。
進むほどに強くなる匂いが根源に近づいていることを告げていた。
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