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暫く進むと『其れ』はあった。
太い幹の下に横たわる其れを見下ろす。
引き裂かれた着物。
手足についた千切れた枷。
振り乱れた長い髪。
その隙間から見える裂傷だらけの肌。
血と体液が混じった白濁した赤に濡れている体躯はまだ年若い少女のように見える。
見てわかるほど、酷い惨状…。
誰が見ても目を逸らしたくなるほど。
「……女人。いや、童か」
ゆらりと顎に添えていた手を近づけると、ピクリと小さく其れが動いた。
「…生きているか」
伸ばしかけた手を胸の前で組み合わせ、相手をジッと見下ろし返事を待つ。
先ほど微かに動いた体は動く気配はない。
「…意識はない、…か」
再び手を伸ばし体に触れる直前、乱れた髪の間からのぞく瞼がカッと見開き真紅の瞳でこちらを見詰めた。
まるで触れることを拒むかのように警戒の色を含んだ瞳。
今の惨状でも十分強い輝きを放っていた。
唇の端を歪め、真っ直ぐに見下ろす。
頭上に輝く月がその輝きを増し、二人の姿を照らし出した。
対峙する二人。
ぶつかる金と紅。
見下ろす男の唇が笑みを浮かべ言葉を紡ぐ。
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