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静まりかえった部屋の中、夜儀は麻宮に視線を移す。
薄れゆく意識の中、確かに見たのはこの男だった。
何故助けられたのか真意を図りかねて、チラチラと見ることしか出来ない。
「……鶉火とは、知り合いのようだな」
「……え?…ええ、数年前一度お会いしたことがあります」
「…そうか」
麻宮の返事を聞くと、再び部屋は静寂を取り戻す。
重い沈黙の後、夜儀が小さな声で呟く。
「……何も、聞かれないのですか?」
「何か話したいのか?」
「……い、いえ、そうではありませんが…」
麻宮の応えに少なからず動揺する。
では、なぜこの男は何も聞かないのにここにいるのだろう。
もう一度、麻宮をチラリと見上げ、ゆっくりと口を開いた。
「……助けて頂いて有難う御座います。……あの、何故助けて頂いたのですか?」
「……助けた覚えはない。」
夜儀に視線を移すと、唇に薄い笑みを浮かべる。
「………あの状態のお前が、生きることを選んだ。…ならば、どう生きるのか少しばかり興味が出た。…ただそれだけだ」
麻宮の言葉に僅かに目を見開く。
確かに、あの時この男の声を聞いた。
『――選べ』と。
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