プロローグ

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 冷たく凍てつくような風が、眼下に見下ろす高層ビルの谷間に沿って吹き荒れている。  僕は今日、その人生を終えようとしている。自殺する理由だって?  理由ねぇ。理由は銀河系にある全ての星を、足して二で割ったぐらい存在する。二で割る必要が皆無だって? それはまあ謙遜というやつである。  その中で最大の理由は、世界に絶望したからである。  足の引っ張り合いに権力闘争。  愛憎渦巻く人間関係。  謂れのない誹謗中傷。  果ては検察組織の冤罪事件。  直接の原因はその四番目である。僕の来歴を端的に語ろう。  陰陽師である。あの千年以上の歴史がある陰陽師である。  フィクションで語られる場合にはよく式神やら鬼の行使で、八面六臂の活躍をするあの陰陽師である。  こんなにも強調した後で言うのもあれだけれど、陰陽師は副業である。  本業はフリーターである。フリーライターでもなければ、アリゲーターでもない。つーか言うに事欠いて、動物と比較するなんて……。   さて、言うに事欠いてなぜフリーターかといえば、副業の方が儲かっていて正社員で働く暇がなかったからだ。  陰陽師がなぜに儲かるかというと、先祖代々続く占星術で占って欲しい政治家が政界には一定数いるのだ。  どうも僕で94代目らしいのだけれど、早くに親父が引退したこと早々と御鉢がまわってきたのだった。  とどのつまり、因果が巡りに廻って、既得権益者のパンドラの箱に辿りついてしまったらしい。
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